21世紀版ソロモン諸島研究:背景

いわゆる途上国で環境,健康,ライフスタイル相互の関係を視野に入れて包括的に行われた実地調査は,Dr. Michael Alpersらによってパプアニューギニアで行われたものや,1960年代にDr. Albert Damonらが着手し1980年代まで範囲や内容を拡充して展開された「Harvard Solomon Islands Project」(Friedlaender JS, ed., 1987)などいくつかある。

しかし,グローバリゼーションや近代化が大規模に進行中の途上国においては,感染症が残存していながら,肥満,糖尿病,高血圧といった非感染症が増加傾向を見せ,新たなタイプの健康転換が起こりつつあると指摘されている21世紀にあって,これらに匹敵するような包括的な研究はなされていない。

その理由の一つには,途上国の村落部での調査には伝統的権威による協力が欠かせず,主として人文・社会科学系の研究者が行ってきたような長期的な付き合い方が必要だが,健康や環境についての調査を客観的に行うには自然科学的な視点から多くの機材をもって調査チームが村に入る必要があり,それらを統合する組織作りや運用が難しいということが挙げられる。

本研究においては,さまざまな立場から長年にわたってソロモン諸島各地でフィールドワークを行ってきたメンバーと,1990年代からガダルカナル州東タシンボコ区で調査開始し,2006年以降毎年2回の住民健診を含むフォローアップ研究を行ってきた「タシンボコ研究チーム」が有機的にコラボレーションすることにより,この弱点を克服することができる(タシンボコ研究についての詳細は,webサイトを参照されたい)。