21世紀版ソロモン諸島研究:研究目的

本研究では,従来から研究してきたタシンボコとホニアラに加え,ホニアラ住民の多くの出身地で,マラリアが残存しているマライタ州の2村落(焼畑農耕を基本的生業としているアノケロと,海外からの開発援助が入っているフィユ),ウェスタン州ニュージョージア島北部にあって,宗教的な理由で自給的な焼畑農耕を続け,芋類とココナツなどの果実と野菜と魚だけの食生活を続けている村落(パラダイス),ウェスタン州ガトカエ島にあり,エコツーリズムの受け入れなども経験した村落(ビチェ)を含めた6つの集団において,文化人類学,環境社会学,開発人類学,熱帯医学,寄生虫学,人類生態学,公衆衛生学などの視点から,人口,社会システム,伝統文化,食生活など多くの側面を含むライフヒストリーと健康状態を調べて比較検討し,村落社会側での保健政策の受け止め方も含め,それら6集団の多様性と共通性を明らかにすることを第1の目標とし,その結果を踏まえた討論を通して,グローバル時代の途上国政府がとるべき望ましい健康政策のあり方について提言することを第2の目標とする。

マラリアをはじめとする感染症が残存しつつも,都市化・近代化にともなってライフスタイル・食生活や移住などを含むライフヒストリー全体が変容し,肥満・高血圧・糖尿病などの生活習慣病が増えてきたという状況は,グローバル化が進行している現代の途上国にあって,ある程度共通してみられるけれども,実際にライフヒストリーと健康状態がどのように変容しつつあるのかを持続的かつ客観的に共通の尺度で調べた研究は数少ない。

本研究で選択した調査対象は,それに加えて,都市化・近代化の程度,生業,宗教,海外からの援助の入り方,社会組織などがかなり多様な複数の集団であり,研究組織は,それぞれの集団を長年にわたって調査対象としてきた,別々の専門分野をもつ研究者によって構成される。このような共同研究はこれまでほとんどなされたことがない。

医学・保健学のみならず,文化人類学,環境社会学,開発人類学などの視点をもった研究者とのコラボレーションによって,健康政策の村落側での受け止め方と,そのことが健康状態の変化に対してどのように影響したかを検討することが初めて可能になる。これは社会疫学のさらに一歩先をいく研究フレームであり,真に住民に益する新しい健康政策のあり方の提言につながると予想され,国際保健学および公衆衛生学的見地から,きわめて大きな意義があると考えられる。